1Cr Drudgery―白黒徒花―

02.Cr of Messiah―救世の剣―Verse 1

 宿での部屋の取り方はいつも決まっている。二部屋取って、俺とクローム、セシウとプラナに分かれる。ほとんどこの一択だ。稀に二部屋取れない時は、俺とクロームだけ別の宿を探す場合もあるが、基本はそんな感じだ。

 だというのにどうしてか今、セシウは俺と共に男部屋にいた。

 女部屋ではプラナがクロームに治癒魔術を施したりなんだりとしてるだろうし、邪魔をするのも憚られたんだろう。案外空気は読めるセシウである。こいつは野性的な部分が強いせいか、空気や雰囲気など見えないものに対して敏感だ。

 俺の使う予定のベッドの真ん中に、スニーカーを脱いでぺたりと座り込みぼーっとし続けている。天井を見上げて一体何を考えているのやら。

 あんまり意識する必要もないだろう。視界の端、傷が多くデコボコとした机の上に置かれた花の冠を見ていた方がずっと落ち着く。

 簡素な机に向かい、椅子にだらしなく寄りかかった俺は以前立ち寄った貿易街で買い溜めた文庫本を適当に読み漁っていた。

 見慣れない作家の本などもあったので、調子に乗って衝動的にばかばか買ってしまったのだ。旅をしているお陰でそういうなかなかお目にかかれない本などと出会う機会があるので、よさそうなものを見つけるとつい買ってしまう。

 この前の貿易街は特に品揃えがよかったから随分と買い溜めてしまった。今は荷物が嵩張って面倒臭いことこの上ないので後悔してもいる。

 そういうこともあって最近は、暇さえ見つければこうやって読書に勤しみ、本を消費しようとしているわけだ。

 基本的に一度読んだ本の内容はほぼ完全に記憶することができるため、読み終わったら捨てるようにしている。そうでもしないと荷物が増える一方なのだ。

 言葉もない部屋は静かで、俺がページを捲る時に紙が擦れ合う音と、セシウが僅かに身動きしベッドが軋む音だけが妙に耳についた。その音がお互いの存在を嫌でも主張する。

 特に話すこともないんだよ、こいつとは。

 昔の話をするほど懐古主義者でもないし、何よりこいつとそんな話をしたところで、特段面白いことになる気もしない。

 お互い改めて話すようなことさえない。

 そう考えると長く深い付き合いをしてきたよな、こいつとは。

 今も一緒に旅をして、なんだかんだセシウはいつも俺の側にいた気がする。

 不思議なことである。

 そんなことを考えてしまったからだろうか? 俺はなんとなくセシウの方へと目を向けてしまう。

 ――どういうわけかセシウと目が合った。

「げっ」

 短く声を上げて、セシウは首がねじ切れるんじゃないかという勢いで俺から顔を逸らす。……な、なんだ?

 ていうか今目が合ったってことはこいつ俺の方見てたな。

「何見てたんだよ?」

 俺の問いにセシウは、心なしか赤く染まっているようにも見える頬をぽりぽりと掻く。視線は彷徨い、俺をちらっと見てはすぐに逸らされる。

「別に? なんかインテリぶっててダサいなぁと思って?」

 ぐっ……口の減らない奴だ……。

「あー、そりゃあ悪うござんしたねぇ。まあ、何? 俺、どっかの野蛮人と違って字の読み書きできるから? ゴリムスからしたらさぞ知的に見えるかもしれませんねぇ?」

「私だって文字の読み書きくらいできるっつぅの? つぅかゴリムスやめろつってんだろぅ。そろそろ本気で本体叩き割るぞ」

「だから眼鏡は本体じゃねぇっつぅの」

「眼鏡がないとガンマと分からない。つまり眼鏡が本体」

 俺の個性眼鏡だけか!

 俺ってそんなに個性ないの? 眼鏡くらいしか取り柄がないの? 常日頃、自分の非力さは痛感してるけど、さ。

 本当になんで俺、こいつらと一緒にいるんだろ……。

 部屋の空気がいい感じに重苦しくなってきたところで、ふと部屋の扉がノックされた。

「ん?」

「はぁい」

 視線を向ける俺と違って、行動力のあるセシウはベッドから素早く飛び降りると、靴下のまま扉の方へと駆け寄っていく。

 セシウが扉を開けると、そこにはクロームとプラナの顔があった。長身のクロームと小柄なプラナ、並ぶとすごく身長差がある。

「ん、治療終わったのか?」

「ああ、お陰様でな」

 いつも通りに仏頂面で言われると感謝されてるのか、嫌味言われてるのか判然とはしないけど、おそらく今回は後者だと予測される。

 三ヶ月も一緒に旅してれば、そういうのも分かってくるというものだ。

 付き合い自体は旅を始める以前からいくらかあったものの、いろいろと把握してきたのはここ最近だ。

 クロームの後ろから、プラナの小さな頭がひょっこりと現れ、俺とセシウを交互に見る。

「お待たせして申し訳ありません。治療は無事終わりました」

 さすがはプラナと言ったところか。あれくらいの傷はあっさり治せたんだろう。

 こういう時治癒士がいるっていうのは頼りになる。

「そんで二人揃って仲良くどうしたよ? 勇者さん? 世界を救うための話し合いでもするのか?」

 もしそうだとしたら、俺が先程あの看板娘に言ったことが嘘になってしまうではないか。俺の人としての信頼だけが下がってしまう。これは由々しき事態である。

「お前達二人には負けるよ」

 また皮肉を言って、クロームは扉のすぐ隣の壁に寄りかかって腕を組む。腰に佩いたままの剣がかちゃりと音を立てた。

 こいつはいつも得物を身につけてる。俺もだけど。お互い常に臨戦態勢を整えておかないと気が済まないもんな。

 そうでもないと生き残れない俺達って案外気が気ではない状況である。もう慣れてしまったわけだけど。

 プラナは俺達三人の顔を交互に見て、やがてクロームのベッドへととことこと向かい、その上に腰を下ろした。セシウは飛び乗るようにぼっすんと座っていたというのに、この差は一体なんだろう。

 人種の違いだな、うん。

「で? こんな狭い部屋に四人も集まって、どうしたわけよ?」

 椅子の上で体を半回転させ、俺は腰掛けの上に顎を載せてクロームに訊ねる。

 腕を組み、黙って壁掛けの置物と化していたクロームは静かに閉じていた目を開け、ゆっくりと息を吐き出した。

「なんてことはない。世界を救うための話し合いだ」

「は?」

「え?」

 俺とセシウは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。それは冗談か? 当てつけか? 本気か?

 こういう時、こいつの表情の変わらないというとこが面倒になる。

「俺とガンマが魔物を討伐しに行ってる間に、セシウとプラナには買い出しを頼んでいたのは覚えてるな? そこでどうも、プラナがあまり好ましくないものを見つけてしまったようでな」

 好ましくないもの? また妙な言い回しをするな、こいつは。

 少しばかり眉を上げ、俺はプラナへと視線を向ける。

「妙な物? 私は気付かなかったけど……」

 一緒に買い物に行ったはずのセシウは全くそんなものには気付いていなかったようだ。

「ゴリムスに気付けるわけねぇよ。だってオメェ、自分の名前書いたバナナの房、一本食われても気付かなかったし」

「ぬあー!? あれ喰ったのお前かぁ!」

 ふと、ベッドから身を乗り出してきたセシウは握り拳を俺に振り上げてみせる。

 一応気付いてはいたんだな。

「今はどうでもいいだろ。んなこと。で、妙な物ってのは一体?」

「どうでもよくなーい!」

 セシウの異論は無視しておく。いちいち取り合っていては切りがないし、何より面倒くさい。

 俺も村に到着した直後に、一通り調査したはずなんだが。フィールドワークは俺の役目だというのに気付けなかったというのは、ちょっと悔しいものがある。

「セシウとガンマが気付けなかったのは無理もありません」

 答えたのはクロームではなくプラナであった。ローブに包まれた膝の上に、ほっそりとした両手をちょこんと置き、俺を真っ直ぐに見つめる。血のように紅い瞳は深く、見つめられているとなんだか吸い込まれてしまいそうな気がする。

「あれは巧妙に魔術的な細工がされていました。私でもなんとか気付くことができた、というほどです」

「プラナでもなんとかってなんだそりゃ? 王族の守護結界じゃあるまいし」

 プラナは、魔術学校の頂点とも言われるヘカテー魔術学院を首席で卒業した才女。かなりのエリートだぞ?

 俺達ならまだしも、王室お抱えの魔術師相当の実力者であるプラナでさえやっとっていうのはさすがにおかしい。

「しかし事実、我々はその存在の気配を察することさえできなかった」

 静かに話に耳を傾けていたクロームがふと口を開く。すっかり置物と化していたので内心驚いたのは秘密である。

「俺達でもそれなり以上に五感で魔術を感じることはできる。そんな俺達が気配さえ分からないという時点でそもそもおかしいことだ」

「まあ、確かにそうだわな」

 プラナほど敏感に、というわけではないが、俺達だって感づく程度なら今までできた。俺達でも気付けないって時点でよほどのことだろう。

 そんなものがこんな辺境の村にある時点でおかしい。どう考えても場違いだ。

「で? その中身ってなんなの? 危ないものなの?」

 と、そこで呑気なセシウの声が入ってくる。ここまで来て、危なくないなんてことはまずないだろう。

 危険だと判断したから、クロームも俺達に話したんだろう。その魔術による細工で隠されていたものが他愛もない魔導具――例えば照明や排水目的のもの――だったら、クロームは俺達に話す必要性さえ感じないだろう。

 しかしプラナの顔は呆れることもなく真剣だ。

「隠蔽されていたのは魔導陣でした。それもかなり高度な技術によってプログラミングされたものです。学院の学長にも見せて差し上げたいところですよ」

「そんなにすごいのかよ?」

 ヘカテー魔術学院の学長っていったら、まさに先程言った王室御用達の魔術師だ。そんな人物でも驚くほどのプログラミングが施された魔導陣なんて、どう考えてもやばいだろう。

「いえ、すごいというよりまずいです。確かにやろうとしていることはすごいですが、それよりもまずおぞましい。あれは魔界と直結する穴を開けるためのものなんです。起動すれば、この村なんて一溜まりもないでしょう。しかもそれが村の至る所に隠されているんですよ? 誰一人助かることはできないでしょう」

 あまりにも常軌を逸した情報に、俺もセシウも言葉を失う。前もってプラナから話を聞いていたであろうクロームの顔も険しいものだ。

 確かにおぞましい。魔界に直結なんかしたらこんな小さな村、魔物で埋め尽くされることだろう。。

「魔界に直結って……そんなことできるの?」

 沈黙を破ったのはセシウのバカっぽい疑問であった。

 まあ、その疑問は分からなくもない。そんな話は今まで聞いたこともない。簡単にできることではないのは確かだろう。

「理論上は可能です。要は召喚魔術の際に魔物一匹を召喚するために使う小さな通り道を広げてしまえばいいだけのことです。言うだけなら簡単ですけど、それだけのプログラミングをするとなると、かなり時間がかかりますし、失敗は許されませんね」

 元々召喚魔術自体が高度な魔術だったはずだ。世界に魔術師は数多いるが、召喚魔術を使える魔術師自体一握りだと聞く。その高度な魔術をさらにより高度にした発展系――きっと俺なんかじゃ譜面を見せられても理解できないプログラミングになってるんだろうな。

「ガンマ、お前はどう思う?」

 クロームがふと俺に意見を求めてくる。最終的な方針を決めるのは当然リーダーであるクロームだが、こういう場合はいつも俺に意見を促してくる。数少ない俺が必要とされる場面といえるだろう。

 俺は頭をかき、思考を巡らせる。

 高度な隠蔽結界によって隠された高度な召喚魔術による、高度な魔界直結。どう考えてもその辺の魔術師がやるようなことじゃない。

 悠長に構えてられる状況ではないだろう。できるだけ早く片付けておきたい。よく分からないものが側にあるってのはそれだけで胸くそが悪い。反面、よく分からないものだからこそ、慎重に行動すべきでもある。

 下手を打つことが許される状況でもないのだ。村そのものが危険かもしれないわけだし、慎重に動くことを第一に考えるべきだろう。

「現段階じゃ情報が少なすぎる。明日辺り、もう少し調べてからでも、結論を出すのは遅くないんじゃないか? あまり不用意な行動はしたくない」

 俺は自分の考えの後者を選び、慎重に動くことを提案する。

 腕を組んだままのクロームは俺に視線を向けたまま、静かに目を細めた。

「あまり、悠長に構えていられる状況でもないのだがな。村人の命がかかっている」

 クロームは俺が選ばなかった方の意見を知ってか知らずか口にする。よくあることだ。

 こいつとは思考パターンが似ているのかもしれない。最終的な決定を下す価値観が違うだけで。

 だからこそ、俺は意見を求められた場合、常に自分が優先すべきだと思った意見を選ぶことにしている。俺が選ばなかった意見をクロームは常に持っているのだから。俺はその考えが行きすぎないよう歯止め役に徹するべきだろう。

「そうは言っても今からできることなんてないんじゃねぇか? 明日の朝、四人で実際にその魔導陣を調べてみるしかないだろ、どうするにしたって。調べてからで遅くはないはずだ」

「ふむ……それもそうだな」

「この時間帯に出歩くのは却って目立ってしまいますね。特に私達は勇者の一行として注目されています。村人に不安を与えないためにも明日、目立たないように行動する方が賢明と言えるでしょう。村人達は我々の一挙手一投足にも注目しているはずです。できれば気付かれないように事を進めたいです」

 俺の意見にさらにプラナが賛同してくれる。これは心強い。俺だけじゃ通らない意見もプラナからの賛同があれば、クロームに届くだろう。

 クロームはプラナに対して甘いからな。

 しかし、確かにプラナの言うとおりだ。自分の家の真下に不発弾があれば、例えそれがどんなに害がないものだとしても不安になってしまう。しかもただの不発弾であったのならまだマシだというのに、この村にあるのはどう考えても危険な魔導陣だ。魔術への親しみが薄い辺鄙な土地の住人にとって、魔術っていうのはそれだけで恐ろしい。正体不明っていうのは人間が最も恐れるものだ。

 もし発覚すれば村人全員に伝播し、恐慌状態となることは避けられない。

 混乱ってのはやりづらい。できる限り静かに、気付かれないうちに全てを終わらせたいな。

「なるほど、確かにそうだな。混乱を招くわけにはいかない。ガンマの言うように、明日になってから行動を開始するのが最善、だな。セシウ、お前はどうだ?」

 ある程度の結論に達したところで、一言も話さず会話の流れを見守っていたセシウに、クロームが発言を促す。

 セシウはこの手の話題になると、いつも黙り込む。不満や不平はないようでのんびりと俺達の会話を見守っている様子だ。こういった話し合いに関しては俺達三人に全てを委ねているらしい。

 この手のデリケートな問題は苦手だからな、セシウ。俺が戦闘では足手まといにならないように気を付けるのと同じ感覚なんだろう、と個人的には推測している。

 突然指名されたセシウは焦ったり、驚くこともなく「んー?」と少しだけ小首を傾げた。ホント……呑気な奴。

「私もガンマの意見に賛成かな。この村に来るまでずっと歩き通しだったし、今日くらいはゆっくり休みたいっていうか」

 セシウのどうにもズレた意見に俺は呆れてため息を吐き出す。真面目に考えている俺達の方がバカみたいだ。

「……お前な……今はそういう話をしてるわけじゃ」

「セシウの言う通りかと」

 悪口の一つや二つ言ってやろうとした俺の言葉を遮り、まさかのプラナが賛成の意を示した。

 え? どういうこと?

 これにはさすがのクロームも予想外だったらしく、腕を組んだままながら目を丸くし、プラナの方を凝視していた。これだけでも相当驚いている方だ。

「前の村からここに来るまで徒歩で丸一日。険しい山道を歩き通しだった上に、お世辞にも寝心地がいいとは言えない場所での野宿ばかり。正直、私も大分疲れが溜まっています。クローム達だって本音を言えば疲れているでしょう?」

 ……まあ、そりゃあ、な。

 ゴリムスであるセシウさえ疲れたというほどである。インドア派の俺が疲れていないわけがない。一応他のメンバーの手前、疲労を口には出さないでいたが、実際動くのもほんの少し億劫な状態だ。

 セシウが疲れているのならクロームだって疲れているし、俺が疲れているということは俺より体力のないプラナはもっと疲れている、ということになる。

 万全のコンディションとは、とてもじゃないが言えない。この状態で、村人の命がかかった問題に臨むというのは確かに愚かな選択かもな。

 クロームも押し黙り、反論する気配がない。つまり言うとおりなんだろう。

「今日はもう休みたいところだよねぇ。さすがプラナ、分かってるぅ」

 賛同されたことが嬉しいのか、セシウはベッドの上で四つん這いになって、出来うる限り隣のベッドに近寄って、腕白坊主みたいな屈託のない笑顔をプラナに向ける。

 一応賛同する形になったとはいえ、セシウとプラナの意見は根本的に違う気がするのはきっと気のせいじゃない。セシウのは本能的なものであり、プラナのは理性的なものである。前者を野蛮人、後者を美少女と呼ぶ。

 大体合ってる。

「それに……あの……」

 と、プラナは頬を赤らめて少しばかり躊躇うように体をもじもじとさせる。膝に載せられた手を落ち着くなく動かして、どうにも恥ずかしげだ。

 ……俺への愛の告白だったらいいのに。

「私達……正直……かなり臭っている、と思います……」

 …………。

 誰も何も言わなかった。

 言うことができなかった。

 そんなことない、と言えるだけの無謀さもなかったし、そうだよね、と現実を認める勇気さえなかった。

 なんせそのままの状態で一体どれだけの村人と接触したと思っているんだ。そんなことを思い返すと、いろいろ後悔が込み上げてくる。

 臭う勇者とか……あかんだろ。

「なあ、プラナ?」

「はい?」

「くんかくんかして――」

「黙れ変態」

 唸るような声でクロームに阻まれた。どう考えても悪いのは俺なので、それ以上は何も言わないことにする。

 俺の使う予定のベッドの上から、セシウが冷ややかな目を向けてきている。声には出さず、口の動きだけで俺に「キモッ」とまで言ってくる始末だ。青筋が立っているようにも思えるので、おそらく至近距離にいたら頭蓋骨を破砕されていただろう。

 セクハラ発言も命懸けである。

 被害者であるはずのプラナが全く俺の発言の意味を理解していないのが救いである。唇に指を当てて、首を傾がせており、頭の中は疑問符で埋まっているのだろう。

 天井を見上げる円らな紅い瞳が実に可愛いのである。

 俺のせいで締まりのなくなった空気を、クロームは咳払い一つで振り払った。三人ともクロームに注目し、次の言葉を待つ。

「解散」

 至って真面目な声で、クロームは決定する。誰一人文句は言わなかった。何故ならそれが俺達の総意だったから。

 俺達四人はお互いがお互いを見合い、深く頷き合った。全員が一斉に席を立ち、きびきびとした動きで行動を開始した。これは俺達勇者一行に課せられた最優先の任務だ。勇者一行の威信に関わるとても重大なものである。失敗は許されない。

 ――今日は頭も体も二回洗うことにしよう。