1Cr Drudgery―白黒徒花―
02.Cr of Messiah―救世の剣―Verse 3
我らが勇者一行の前に所狭しと敷き詰められた朝食兼昼食であるピザはあっという間にその存在を亡き者にされた。六枚のピザをクロームとセシウは、丸呑みするような勢いで次から次へと口に運び、食いきれないとか言っていた俺は、二人の休みなき食事の隙を突いて自分の分を確保することで精一杯であった。
プラナの分はクロームが確保し、なんと二ピースも食べた。これはすごい。一般人基準だと少ないという意味ですごいわけだが、プラナ基準だといつもよりずっと多かった。一ピース食えるかどうかも不安だったのである、俺は。
俺はほぼ一枚分くらいは食えたのではないだろうか? 正直数えてる余裕がなかった。まあ、一度に色んな味を楽しめたのはよしとしよう。
すでに満腹な俺は食後の一服を嗜んでいるわけだけど、隣のセシウは唇を窄め、じーっと重ねられた六枚の皿を見つめていた。
「……どしたよ?」
なんかヤな予感を覚えつつ、聞いてみる。
「いや……ちょっと足りないなぁ、って……」
やっぱりか。
こいつの胃袋どうなってんの。臓器の二分の一が胃でできているのではなかろうか?
「つっても、うちの資金は割と辛いんだぜ、どっかの勇者様のせいでよ」
「……知らんな」
腕を組んで瞑想をするように目を閉じていたクロームは、その体勢のまま短く答える。
お前らが食いすぎるせいで食費はバカにならないというのに、それに見合う利益が全く入ってきやしねぇ。
「だからちゃんと謝礼を受け取っておけって言っただろう? この前お礼にもらった装飾品あったろ? どうせ使わないんだし売り払っちまえよ」
宝石や貴金属の塊だったろ、あれ。どうせ俺達が身に着けることなんてないんだから売っちまえばいい。いい金になるはずだ。
クロームはまだ瞑想状態である。
「あれはあの街の人々の感謝の象徴だ。手放すわけにはいかない。端金がほしくて勇者を名乗っているわけではない」
「んなこと言ったって金がなけりゃ世界は回らないだろうが。慈善事業じゃねぇんだぞ?」
「そうだな、事業ですらない。勇者は稼業ではない、生き方だ」
……あー、ダァメだ、こいつ。話になんねぇ。
せっかく助けた人々がお礼に金品を授けて下さろうとしても、全部辞退するからな、うちの勇者様は。
飢え死にしたら意味ねぇだろうに。
「また近いうちにヒュドラから支援金を工面してもらわなきゃなんねぇな、こりゃ」
あまり頼みたくはないんだけどなぁ。それ以外頼れるものはないんだよな。
勇者様がもう少しその辺譲歩してくれると助かるんですけどね。
「で? 追加注文できる余裕は?」
「まあ、まだあるっちゃあっけどよ」
「おんちゃん! オムライス一人前!」
俺がぼそりと答えた瞬間、セシウは手を挙げ、元気いっぱいな声でカウンターのマスターに注文を入れる。
食い過ぎだろ。
「カレー、大盛り」
さらに隠れるようにしながらクロームまでもが注文を入れやがる。
「あ、ずっるぅ! 私も大盛りで! あ、やっぱ特盛り!」
お前らどんだけ食う気だよ。
体の構造自体違うとしか思えない。流石に端の席に座るプラナも顔を真っ青にしてげんなりとしている。
今にも吐きそうだ。
俺達には理解できないよな、そりゃあさ。
大食漢二名――セシウの性別とか関係なく漢なのだ。むしろ俺より男らしいので間違ってないはずだ――は放置して、俺は背を向けていたテーブル席の人々に視線をやる。
テーブルを寄せ合わせて、狭い卓上に大量のご馳走を敷き詰めて、まるで国王の誕生日を祝うかのように賑わう男ども。どういうわけかみんな屈強な体つきをしている。
この村の男達は日中から仕事もせず筋トレに明け暮れているんだろうか? セシウの同類なのか?
「なあ、おんちゃん? なんでみんなあんなに盛り上がってるわけ?」
奥の厨房へクロームとセシウの注文を届けて戻ってきたマスターに俺は疑問を投げかける。細いながらも弛んでる体にエプロンをかけ、髭を蓄えたおっちゃんはその無愛想フェイスのままに頭をぽりぽりとかく。
「何っておめぇ、あんた方が森の怪物倒してくれたからだろうよ」
「そんぐらいでかよ?」
つぅかつまり俺達本当のあそこの中心にいてもおかしくないじゃん、そしたら。なんでこんなカウンター席で四人寂しく放っておかれてんの?
「最初来た時はすごかったんだよ? みんなに囲まれてさ。でもゆっくり食事摂るために、こっちの席にしてもらったわけ」
聞く前にセシウが教えてくれる。ふむ、俺は遅れて来て正解だったな。
「で? 森のあの化け物倒しただけで、そんなに騒ぐほどなのかよ?」
「騒ぐほどってそりゃもうみんな大喜びさ。あの化け物が棲み着いてた北の森はな、この村の交通の要所なんだよ。あそこを通れないせいで、外から客は来ないし、外に働きに出ることもできなかったんだよ、今まで。んで、あそこにいる連中は、どいつもこいつも森を抜けた先の炭鉱で働いてるわけ」
……あーなるほどねぇ。
おそらくそこで採取できるもんが、この村の収入源になってんだろうな。そこにいけねぇってのは痛いわけだ。
「村の外の連中も化け物が棲み着いたって聞いてからは恐がってこっちに来ようともしねぇ。この村は四方にある街に繋がっててな、そこに向かう連中に金を落としていってもらってんだよ。なんたってこの村で採れる作物はどれも上質だからな。それ目当てに来る奴もいるくれぇだ」
確かに野菜とか美味いよな、この村は。
しかし見た目に寄らず、結構儲かってんのね、この村。いや、そういう田舎っぽさってのも人を呼び込む要素になってんのか?
まあ、巧くできてるもんだ。
「ん? 待てよ、おっちゃん? 化け物って北の森に棲み着いてた奴だけじゃねぇの?」
「いんや、それ以外の方角の森にも一匹ずつ厄介のが棲み着いててよ。まあ、そっちまで勇者様に倒してもらうのは悪いし、森を抜けた向こうの街で人を雇って追っ払ってもらうって話になってるよ」
そりゃまた災難だな。不幸にも取り囲まれていた訳か。昨日の早朝、この村に着いた時に活気がなかったのはそのせいだったんだな。今の盛り上がりっぷりにも納得がいく。
と、ここで俺はまた一つ嫌な予感を覚えた。我らが勇者様は、そんな話を聞いて黙っていられれるタマではないのだ。
「……その魔物も俺達が退治しましょう」
ほぉら、やっぱり!
クロームはゆっくりと目を開け、何の迷いもなく口走る。
「は? 勇者様?」
おっちゃんも耳を疑っている。そりゃそうだ。今さっき自分たちでなんとかすると言ったばかりだというのに、この勇者様は一体何を言ってるんだ?
「一匹だけ倒して、根本的な解決もせずに満足するようでは勇者失格です。乗りかかった船でもあります。俺達四人で、その魔物を退治しましょう」
こいつはこういう熱血漢なのである。困った人を見かければ助けずにはいられない性分だ。おっちゃんも戸惑っている。まさか勇者様が進んで申し出てくるとは思ってなかったんだろう。
そりゃ村人達からすれば勇者に任せるのが一番確実だとは思っていたんだろう。でも、そこまで頼むのは厚かましいと考えて、一匹だけ討伐してもらい後は自分達でなんとかする、という結論に至ったのかもしれない。
だというのに、勇者は自らそれを志願してきたのである。
「いや、勇者様、さすがにそこまで頼るわけにはいけねぇよ。一匹退治してもらっただけでも十分だぜ?」
「いえ、そうはいきません。四人で手分けをすれば、魔物の三匹程度どうってことはございません。温かいベッドと美味しい食事を授けて下さったご恩、返させていただきます」
ぐっと拳を作り、クロームは真っ直ぐにおっちゃんを見つめる。銀色の炎が双眸の奥深くに宿っていた。
こうなったクロームはもう止まらない、止められない。
はぁ……やだやだ。次から次へと金にならない仕事ばかりが入ってくる。嫌になるね、全く。
呆れているのは俺だけで、セシウもプラナもクロームを見て微かに笑っていた。さすがは勇者だ、と感銘を受けているのかもしれない。
俺からすればたまったモンじゃねぇ。
おっちゃんは僅かな間口を開いたまま硬直し、やがてカウンターを叩き割らん勢いで両手を叩きつけ、身を乗り出した。
「お、おい! 聞け! てめぇら!」
テーブル席を囲む群衆に、マスターは唾を飛ばしながら叫ぶ。あんだけ騒いでいたというのに、男達は耳敏くその言葉を聞きつけマスターを見る。
「なんだよ、親父。今いいとこなんだ。ジェーンのところのせがれが――」
「勇者様が森の魔物を全部退治してくれるってよ!」
「は!?」
「なんだって!?」
興を削がれ不機嫌だった男達の顔が一瞬で驚きに固まり、次の瞬間には猪のように真っ直ぐ、ハイエナのように俺達へと集ってきた。
とんでもない統率力である。
俺達四人を取り囲んだむさいおっさんどもが顔を覗き込んできた。セシウも驚く。人混みが苦手なプラナはすでに顔面が蒼白だし、俺もむさいおっさんの顔の濃さに当てられて胃もたれを起こしかけている。どっしり構えているのはクロームだけであった。
「お、おい! 勇者さん! そりゃ本気か!?」
「悪ぃことはいわね! やめとけ! 勇者様が欲しいもんなんてこの村にはねぇぞ!?」
「さすがにそこまで頼むわけにはいかねぇよ!」
「そうだ、気持ちだけで十分だよ、俺達ぁ!」
クロームの申し出が嬉しくはあるらしいが、この程度の断りの文句でこいつが引いてくれるのなら俺も苦労しない。
「いえ、報酬は一切いりません。昨日の感謝は身に余るものでした。その分のお返しだと思って頂ければ」
この通りである。勇者様は相変わらずの仏頂面ながら、力強く断言する。
ここで金銭面を気にする程度の余裕がこいつには足りていない。柔軟性がないっていうのかね?
「そ、そうは言ってもよ……」
「これは私達が勝手にすることです。どうぞ、ご心配なく。勝手なお節介ですので、当然報酬はいりません」
言い淀む人々を遮り、クロームは彼らの顔を順に眺めながら硬質な口調で言い切る。その瞳には相変わらず迷いがなく、何かを躊躇う素振りもない。
私的な要望としては、ちょっとお金も欲しいなぁ、という欲を出してもらいたいところである。
さっきから俺は金のことしか考えてねぇな。
そりゃそうだ。資金の管理は俺がほとんとやっているんだ。頭が痛くならないはずがない。
つぅかおっさんども、勇者ばっかり見ていて俺達に全く気を配ってくれない。さっきから勇者に近付こうとするおっさんに肩を押されて、セシウの方に寄りかかる形になってしまってる。
「ちょ……ガンマ、近い……」
やむを得なく体を押しつける形になってしまった俺に、身をよじらせたセシウが不平を漏らす。
「うっせ……不可抗力なんだよ……」
「は? 変なとこ触ったら殴るかんな?」
「頼まれても触らねぇよ、ヴァカ」
確かに肉付きはいいかもしれないが特段興味は湧かん。なんせセシウだからな。猛獣の体を撫でて、誰が興奮するというのか。
セシウは何か言いたげに唇を尖らせるが、それ以上は何も言ってこなかったな。
一命は取り留めた。
俺とセシウが下らないやり取りをしている間にも頭上ではクロームと村人達の交渉が続いていた。
これが報酬の額に対する交渉だったら、俺はとっても嬉しかった。それこそマッパで村を走り回れるくらいには喜ばしい。
俺が未だに捕まっていないことを鑑みると、それは実現していないわけではあるが。
「いや……まあ、そりゃ退治してくれるのは嬉しいけどよ、勇者さん? 少しくらいのお礼は用意させてくれよ。俺達も頼りっきりは申し訳ねぇ」
「いえ、これは私個人の勝手な行動だと思って下さい。見返り欲しさに人助けをしているわけではないんです。ただ、俺がそうしたいからそうするだけのことなんです」
勇者様はいつだって大真面目にこんなことを言う。普通なら偽善だと切り捨てられるようなものも、勇者という称号との相乗効果でプラスに効力を発揮する。
本当、勇者の鑑だよ、こいつは。
クソ喰らえだ。
欲の一切ないクロームの横顔に呆れかえってしまう。と、そこでクロームの向こう側にプラナの横顔が見えた。フードを目深に被り、俯いたまま顔を覆っている。
「おい、セシウ?」
「な、なによ?」
「プラナがやばい」
「は? て、ちょ、あ! あれヤバイ!」
完全に体調不良になっている。
もともと人混みに酔うタイプの人間だ。こんなむさいおっさんの密集地帯に放置されれば、そりゃ体調を崩すのも無理はない。少し都会の街を散策するだけでもすぐにグロッキー状態になるほどだしな。
クロームは今はさすがに気が回らない様子だし、あのままだと倒れかねないな……。
「あ、あのす、すみません! ちょっといいですか!?」
セシウは飛び出すような勢いで立ち上がり、豪腕で巨体で組まれた壁をこじ開けながら進み始める。勇者の仲間の道を阻む理由もなく、男達は潔く道を開けてくれるので、俺も腰を低くしてセシウに付いていく。その途中、村人達と話し合っていたクロームの耳元に俺は顔を寄せる。
「クローム、プラナの調子が悪い。悪いが話は任せるぞ?」
俺の耳打ちにクロームは僅かに頷き、プラナを一瞥する。
「すまん、俺は今席を外せない。プラナを頼む」
「あいよ」
短いやり取りを終えて、俺はセシウの後ろに続く。セシウはすでにプラナを立ち上がらせているところだ。
フードの下から覗く唇からは血の気が失せ、心なしかげっそりとしてる。もう立ち上がるのも辛いらしく、セシウの体に半ば凭れかかっているような有様だ。立っているのもやっと、といった様子だな。
ただでさえ白い顔が今となっては死人のようでさえあった。
「プラナ? 大丈夫?」
「うぅ……ちょっと辛いです」
絞り出すかのようなか細い声でプラナは弱々しく答える。セシウのタンクトップの端を握り締め、まるでしがみついているようだ。
「とてもちょっとには見えねぇだろ。外に出て休もうぜ。話はクロームに任せよう」
どの道俺達がいたところでできることなんてない。俺としては報酬も要求したいのだけれど、そうもいかないだろう。
俺達がいてもいなくても、大した違いはないはずだ。なんせ、人々が注目してるのは勇者だけであって、俺達の存在はそのおまけだ。
気楽でいいぜ、全く。
セシウに体を預けたプラナと共に、俺はおっさん達の分厚い壁を抜け、酒場の外へと向かう。
そう待たないうちに、クローム達の話も終わるだろう。おそらく俺が最も望まない形で。
すでに村人達も根負けしつつある。そりゃそうだ。ああなったクロームはプラナでさえ曲げることができない。
村人達がどんなに拒んだところで、クロームは勝手にやるだろうしな。
「お二人とも、本当に申し訳ありません……」
背後からプラナの弱々しい声が聞こえてくる。俺は振り返らず、軽く手だけ振って応える。クロームの周りにみんなが集まっているお陰で、あの包囲網さえ抜ければ楽なものである。俺達はゆっくりとした足取りで真っ直ぐに出口へと向かい、ウェスタンドアを開け放った。
屋外へと踏み出すと陽光が目に突き刺さる。眩しいのは苦手だ。
俺は手で光を遮り、太陽から背を向けるために二人を顧みた。
「とりあえず日陰で休んでおくか?」
「そうした方がいいかもね。春とはいっても陽射しはプラナ苦手だし」
傍らにプラナを引っ付けたまま、セシウは腰に手を当てて同意してくる。
だよな。プラナはその色白な肌から連想されるイメージ通りというべきか、肌がとても繊細だ。あまり白日の下には晒したくない。
「あの辺の木陰とかいんじゃない?」
セシウが指差したのは、酒場からすぐ近くに腰を据えた木だった。森に生えているような幹の太い木が一本だけ、ぽつんと佇んでいる。
立派な樹木である。確かにあそこの木陰なら十分涼むこともできるだろう。
「プラナ、休む場所はあそこで……って大丈夫かお前?」
プラナはぐったりとしきって俯いたまま顔を上げようとしない。ほとんど体に力が入っていない様子で、セシウのタンクトップを握っていなかったら、そのまま倒れてしまいそうだ。もうすっかり憔悴しきって、俺の言葉が届いてるのかさえも怪しい状態だ。
人だかりとむさいおっさんの相乗効果でプラナがやばい。しかも食後間もない状況。これはよろしくない。
「セシウ!」
「あいさ!」
俺が名前を呼ぶと、何故かセシウはとってもいい返事で両腕と背筋をぴんと伸ばして直立する。学生だったら教師受けしそうだ。
「プラナを運べ!」
「さーいえっさー!」
軍人のように、それであってどこかお気楽な敬礼で了解の意を表して、セシウはタンクトップを握るプラナの手を取り、すぐ側にしゃがみ込む。
「お嬢さん、ちょいっと失礼しやすね」
よく分からない言葉遣いで、セシウはプラナに手を伸ばすと、膝の裏と背中に手を当て、あっという間もなくプラナの体を抱えるように持ち上げた。
「ふぇ!?」
突然の浮遊感にプラナが短い悲鳴を漏らす。思わずセシウの首にしがみつき、落ちないように必死に自分の体を支えている。
所謂お姫様抱っことか言う奴だった。
「はっはっは、しっかり掴まっているのだぞ、お嬢さん」
「あ、あのセシウ……! これは……ちょっと……!」
上機嫌に笑うセシウはプラナの意見に耳を貸さず、一抹の危なげもない陽気な足取りで木陰へと向かっていく。セシウの腕力にかかれば、プラナの矮躯なんて軽いモンだろう。
とはいえ、プラナの表情は引き攣っていて心配だ……。
「おい!? 落とすなよ!?」
「私を誰だと思ってるのさ?」
「ゴリムス」
にかっと笑うセシウへ、ほとんど反射的に率直な感想を述べるとむすっと表情が曇る。
「プラナを抱えていなかったら、今日こそぶん殴ってた」
「そりゃ……プラナに感謝だな」
なんだかんだ俺の悪運もバカにできないもんだ。どうにも巧いこと偶然が重なって、ここ最近直接的な暴力の被害をほとんど受けていない。
プラナはぎゅっとセシウの首にしがみつき、青ざめた顔で地面を見下ろしている。
逆に恐怖で卒倒してしまいそうだ。
そういやプラナって高所恐怖症だったっけ……。
いや、しかしその程度の高さは大したことないような。まあ、地に足が着いていないっていうのはそれだけで怖いモンではあるけどよ。
「プラナ大丈夫か?」
「だ、だ……ダイジョウブ、デス……」
あまりにもぎこちない返答が、ダイジョウブじゃないことを伝えていた。
それにしてもこうやってると、本当にセシウは王子様みたいだな。なんていうか放浪癖があっていつも城を抜け出すような放蕩王子。
プラナの楚々とした深窓の令嬢のような雰囲気もあって、尚更絵になるな。
セシウはただでさえ男前だし。そのさばさばとした性格とか、シニカルな笑みとか、どう考えても男より男らしいんだよな。
絶対生まれてくる性別間違えちまったよな、こいつ。
いくら病的に軽いとはいえプラナを軽々しく持ち上げる辺り、尚更男らしい。
……お、俺だってプラナなら持ち上げられるぞ……? 多分。
そんな見栄をせめて自分に対してだけでも張っておく。そうでもしないと自分が情けなくて泣きそうだ。
正直、足は少しふらつきそうな気がするのだ。試したことないから分からないけど……。
ベッドの上なら女性を抱え上げたことがあるけど、さ。
あまりにも下卑た冗句だ。俺の底も割れるってもんだろう。