――魔術師は去って行った。
再び一人になった鏡夜は、荒々しくベッドに寝転ぶ。……畏怖というモノは感じなかったが、疲労だけは免れなかった。
体は汗まみれになり、両手の震えは止まらず、唇まで小刻みに震えてきた。
――その要因は。
『あの娘の見舞いに行ってやれ』
その言葉を聞いた瞬間、強烈な不安が押し寄せてきた。何か、言い様のない危険が迫っていると鏡夜は直感したのだ。
「……遠近が、入院している」
その理由が何であれ、彼女が傷を負ったというのは確かな事実だと思った。
では何故、魔術師がそのような事柄を鏡夜に伝えたのか?
自分の観察者でもない天美戒が、日常世界の他人事に干渉する意味は皆無だ。
故に、先の言動の意味が鏡夜には全く解らなかった。
――では、なぜ?
(……あいつが、鬼人か裁我に襲われた……)
心中で、鏡夜はその可能性を呟いた。
確率は低いが、天美が日常世界に生きる人間の話を持ち出したのは、非日常の事柄と関連しているからかもしれない。
(もしその通りなら、遠近から何らかの情報を得られるかもしれない)
結論を出すと、行動に移すのは早かった。
ベッドから起き上がり、天美戒が言っていたK大付属総合病院に向かう支度を始める。
裁我を始末する任務を受け持ったのだ。彼に関する情報は少しでも多い方が――
「今、俺は何を考えた?」
しかし、自分の考えていた事の意味が、瞬く間に恐怖を覚えさせる。
(……まただ)
また、思考が狂った。
――利用するのか?
彼女を遠ざけて。
必要となれば、彼女に近づく。
期待させて、絶望させて――。
「まるで偽善者だ……」
再びベッドに横たわる。
ピンポーン
二回目の呼び鈴が鳴った。
しかし、鏡夜は聞こえていないかのように目を虚ろとさせていた。
(……俺に何の用がある? 何を求めている? ――何を期待している?)
――こんな、何もかもが中途半端な人間に。
(……早く帰ってくれ)
鏡夜の否定を無視するかのように、呼び鈴は二回、三回、四回と鳴り続ける。
鏡夜は出る気がなかった。今は、人と会いたくないから。
人と会って、こんな無様な自分を見せたくないから。
……しかし、それは唐突だった。
ガチャッ
「……は?」
思いもしなかった来客の行動に、鏡夜は思わず呆けた声を漏らした。
あろうことか、来客は許可なしに家に上がり込んできたのだ。
鏡夜は、咄嗟にベッドから身を起こす。
「ふあぁ。……良いんスか? 勝手に上がり込んで」
最初に聞こえてたのは、大きな欠伸をしている女性の声。
「いいのいいの! 居るのは確実なんだから!」
次に、いつか聞いたことのあった中性的な少年の声。
静かな足音に対して、ドスドスと無遠慮な足音。
――かくして、その二人は鏡夜の前に姿を現した。
「久しぶりだね、キョウヤ!」
「お邪魔するッス」
先導して姿を見せたのは、テンションの高い銀髪に碧眼の小柄な少年。後方には、ポニーテールの髪型に、目を半眼状態にした日本人の少女がいた。
「――なぜ、お前が日本にいる? カイン・エレイス」
「そんな結論も見出せないの? 全ては星礼会の命令により、だよ」
「……天美が言っていた封殺者っていうのはお前のことか」
はあ、と重いため息を吐く鏡夜。
その、明らかに気分を損ねた鏡夜の反応に、少年――カイン・エレイスはぷくっと頬を膨らませた。
「二年ぶりの再会なんだから、もう少し喜んでもいいんじゃない?」
「お前と再会して喜ぶヤツは、世界には存在しない。――あんたも気をつけろ。いつ殺されるか分からないからな」
鏡夜はポニーテールの少女に視線を送り、忠告を促す。
ポニーテールの少女は、鏡夜の危惧に二度目の欠伸で応えた。まるで緊張感というものが感じられない。
「すでに殺り合ったッスよ。空港からこっちに向かう途中というもの、何度も奇襲を仕掛けられたッス。まあ、カインくんが本気じゃなかったから、死ぬことはなかったッスけど」
微妙な敬語を使いながら、気怠るそうに言う。大きな黒い瞳を半眼状態にした少女は、いかにも無気力な雰囲気を醸し出していた。腰まで届くポニーテールは流麗で、黒絹で出来ているかのような艶やかさがあった。
そんなポニーテールの少女は、直方体の形をした革張りの箱を肩に担いでいた。
(あの箱――)
瞬時に、鏡夜は理解する。あの箱の中に入っている物は、死を具体化した彼女の武器であると。
「チサメちゃんの戦闘力を測定したかっただけだよ。好奇心好奇心っ!」
対するカイン・エレイスという少年は、百五十センチほどの低身長。銀髪に碧眼という容姿をしている。鏡夜の記憶では、確か喜怒哀楽がはっきりとした少年だった。それは現在でも変わっていないようだ。
……しかし、鏡夜はこの少年の本性を知っていた。故に、対応の仕方は完全に熟知しているといっても過言ではない。
そして、二人が最後に別れた二年前と変わらず、大型のアタッシュケースを手に担いでいた。あのケースの中にはカインの武器が入っているのだ。
「天美は明日に到着すると言っていたが……お前のことだ。早く殺したくて前日に来たんだろ」
「その通り! さっきカイさんと偶然会ったけど、少し動揺してたよ。でも、『早いに越したことはない』って言ってたから万事オッケーでしょ?」
ニコニコと笑いながら、指でVサインを作るカイン。
「まあ、私もそれには賛同ッスね。面倒な事には変わりないッスけど……」
後ろ向きな同意を示すポニーテールの少女。その微妙な温度差は、カインとミスマッチしているように思える。
「……とりあえず、二人とも荷物を置いて座ってくれ。紅茶でも用意する」
鏡夜は三メートルとない距離を歩き、キッチンでマグカップを用意し始める。
「サンキュ! 砂糖多めでね!」
「ありがとッス。あ、私は日本茶でお願いするッス」
◆
三人がテーブルにつくと、最初にカインが話を切り出した。
「さて、まずは互いの自己紹介といこうか。ボクはカイン・エレイス。十五歳。イギリスの施設で育った封殺者で、殺す事が大好きな美少年だよ!」
「……」
「……」
微妙な沈黙が入り、ポニーテールの少女は横目で鏡夜を見やる。
「……こういうヤツなんだ。放っておけ」
「む、何かボクを馬鹿にしてるような言い方だね、それ。じゃあ付加要素として言い直すよ。好きな言葉は『殺害』、『殺戮』、『皆殺し』、『殺し合い』……まだまだあるけど、一応、高順位ではこれくらいかな?」
「…………」
「もういい、無視してやれ」
「了解ッス」
二人の言葉に、カインはぷくー、と再び頬を膨らませる。しかし、先の言動のせいか、二人は謝る気になれなかった。
「じゃあ、私の番ッスね。
「なに?」
鏡夜は千雨という少女を訝しげに見据えた。そんな前例は聞いたことがなかったからだ。
封殺者に成る為には、施設での殺人訓練が絶対視される。それは、何の躊躇いもなく鬼人を殺すという嗜好を身に付けさせるためだ。
それでは矛盾が生まれてしまう。施設の出身者以外が封殺者に成ったという前例を鏡夜は耳にした事がない。つまり、それが意味するのは――
「あんた、魔術家系の人間か?」
「はいッス。工藤家は、日本退魔御三家の筆頭とされているッス。古くからの血統が受け継がれて、生まれた時から純粋な魔力を扱える体だったので、魔術儀式も受けていないッスね」
なるほど、と鏡夜は心中で納得する。
スポンサーが日本を代表する魔術家系――そして、魔力の使用が可能なら、施設での訓練は無駄という訳だ。
「じゃあ、あんたは
マナには、封殺者が行使する体内魔力粒子(イナ)とは異なる点が一つある。
それは使用に限りがないということだった。封殺者の用いる
しかし、
そして、それを行使できる存在は、魔術家系に生まれた人間――つまり、『魔術師』の部類に属するということになる。
しかし鏡夜の問いに、千雨は頭をガシガシと掻き毟りながら否定した。
「あー、いえ。私、基本的に
と、千雨は先刻部屋の隅に置いた直方体のケースを指差した。
「それと、封殺者に成ったのも当主の命令ッスね。『お前の生活環境を変える。星礼会に所属して、世の中の為に働け』だそうッス。……まあ、四六時中、家で寝ていたのが原因だと思うんスけどね」
「……そんな理由で、あんたを封殺者にしたのか?」
「はいッス。それと、星礼会っていう団体とか、『コードナンバー』とか、よく解らないッス。私が封殺者に成ったのは今年の十月でして。知識に乏しくてすみません」
ペコリと礼儀正しく頭を下げる千雨に、今まで二人の会話を傍観していたカインが口を開いた。
「簡単に説明するとね、星礼会っていうのは『世界管理者』だよ」
――思想、存在概念、最終目的、その全ては、世界安定の為にある。本拠地はイギリスのロンドンにあり、半径一キロ四方に渡って半円球型の人払いの結界を張り巡らせてある。
「目的と言ったら、鬼人の排除に当たるね。その存在は、世界安定を維持する為の不要な要素――まあ、有り体にいえば邪魔な存在だと彼らは定義してるんだ。
鬼人を殺す事が星礼会の下部要員であるボク達封殺者の役目で、安定を保つ為の手駒ってわけ。そして、世界管理者と名乗るだけあって、世界各国の政府連中とも交流が深い。政府の上層部に位置する人間は、星礼会は勿論のこと、封殺者の存在も認知しているだろうね。さらに言えば、封殺者を育成する機関である施設への資金援助も世界政府が担っている。星礼会という一組織だけじゃあ、世界中に在る研究設備を整えるのは不可能だからね」
カインはそこで一息つき、紅茶を喉に通した。
千雨は「うーん」と、難しい顔をして低く唸った。
「極論で言うと、私達は星礼会の必要要素と判断して良いッスか?」
千雨は鏡夜に視線を向けて訊ねる。しかし彼は目を逸らし、黙り込むだけだった。
「チサメちゃん。鏡夜が黙り込むのは、彼らの考えには興味がないっていう意思表示だよ」
皮肉げに唇の端を吊り上げながらカインは言った。鏡夜もその言葉に反論できないあたり、事実当たっているのかもしれない。
「それと、確かにチサメちゃんの言葉が真実だけどね、ボク達はそこから理解するという行為に至るまで相当な時間を有したよ。――ねえ、キョウヤ?」
「知るか。俺に聞くな」
反応はにべもない。カインはその様子をニコニコと面白げに見据えながら、「じゃあ、最後はキョウヤだね。とびっきりなヤツをお願い!」と、大袈裟に両手を開いて自己紹介を促した。
「……千堂鏡夜。十七歳。日本の施設で育った」
鏡夜の端的な自己紹介に、カインは不満があるのか「えー、それだけ?」と、唇を尖らす。
しかし、鏡夜にとってはそれだけの言葉で全てが事足りていた。他に言う事もないし、他人に個人情報を教えたくなかったからだ。
「ま、いっか。じゃあチサメちゃんに『コードナンバー』の説明をするね。空港では言いそびれたから」
「カインくんが奇襲を繰り返したからッスけどね」
無表情で悪態をつく千雨に、カインは「まあ、それは置いといて」と腕でジェスチャーをした。
「簡単に言うとね、コードナンバーっていうのは
『コードナンバー』――。有り体にいえば、それは封殺者の戦闘力を指す。
封殺者と成った時、最初に該当する階級は50である。その段階から、鬼人の抹殺数、戦闘能力を『
「50から始まって、鬼人の抹殺や任務を果たすことによって40、30と実力が上がっていくんだ。最終到達地点は『
……でもそうなると、チサメちゃんの階級ってどの位置になるんだろうね。魔術家系に生まれた人間だったら、魔術師の部類に属するのが普通だけど、封殺者でもある。うーん……」
腕を組んで考え込むカインは、彼女の階級に関して納得がいっていないようだ。
「50で良いんじゃないッスか? だって私、封殺者に成ってからまだ一度も鬼人を殺してないんスから。というか、面倒だっただけなんスけど」
半眼をさらに細くして、千雨はしれっとそんな事を言った。
(……こいつは、封殺者に成るべきじゃなかったんじゃないだろうか)
鏡夜は心の底からそう思った。鏡夜からすれば、鬼人を殺さない封殺者など、封殺者ではないという倫理観に基づいた考えだった。
「で、二人の階級はどれ位なんスか?」
鏡夜とカインに視線を巡らせ、千雨は尋ねた。
「ボクは零階級のナンバー06だよ。称号は、一応『射貫く銀』っていうのを授与されてる。……まあ、そんなモノを貰ったところで何かが変わるわけじゃないけどね」
「鏡夜くんは?」
「……ナンバー01。称号は『刹那』だ」
そして、鏡夜もカインと同一の考えだった。称号など与えられても、どうなるものではない。ただ、強くなったという認識しかできないのだから。
「じゃあ、一番強い封殺者は鏡夜くんって事ッスか?」
「……ナンバー01とはいえ、それは日本を限定しての話だ。それに、その例えは封殺者の部類での話だろ。魔術師を類に加えると、俺なんか下位者もいいところだ」
鏡夜の言い分は、事実その通りであった。
零階級の封殺者といえども、それは魔術師の領域には程遠い。
事実、星礼会の定めた基準では、『魔術師>封殺者』という不等式が成り立っているのだから。
「さて。自己紹介も済んだし、そろそろ現状の把握に努めようか。キョウヤ、何があったの?」
「……お前達、星礼会から任務内容の書類を渡されていないのか?」
「はいッス。とりあえず『日本の千堂鏡夜と合流しろ』と、こんなところッスね」
「こんなのボクでも初めてだよ。書類なしで現地に赴くなんてね。ま、上層部の思惑なんて理解できる訳がないから、別にいいけど」
「それに関しては同意できるな。――とりあえず、順序を沿って説明するぞ」
そうして、鏡夜は昨日の出来事――そして天美戒から掴んだ情報を二人に話し始めた。
「――ふぅん。興味深いね。コア、裁我、そして星礼会を潰す、か」
カインはテーブルに肘を立てて、両手の五指を組んだまま思案している。千雨も、腕を組んで「うーん……」と唸っていた。
「――で? キョウヤはどう思うの?」
「あいつの考えは理解に達しない。星礼会を潰すのは不可能だ」
「そうじゃなくて。ボクが言いたいのは、その裁我ってヤツが星礼会に反逆する理由だよ。そいつの基本詳細は知らないけど、原因がなきゃ、そんな馬鹿げた行動は普通起こさないと思うけどね」
「そうッスね。魔術論理学の博士号なんて、そう貰えるものじゃないッスよ。だけど、コアを創り出すために、二年前まで関西の施設で研究を行っていたという可能性も捨てがたいッスね。なら、原因は二年前を遡るという可能性も生まれてくる訳で……頭が痛くなるッスね」
「じゃあ」と、カインは人差し指を立てて、
「話は変わるけど、コアで性質変化された鬼人の戦闘力ってどの程度なの? キョウヤ、戦ったんでしょ?」
「戦ったのは確かだが、あれは戦闘といえない。あの鬼人は、行動という行動を見せなかったからな」
昨晩あの廃ビルで邂逅した鬼人は、鏡夜の行動に一切の反応を見せなかった。まるで、自分から殺されるのを望んでいるかのようだった。
「おそらくだが、あの鬼人は不完全に性質変化されたと俺は考えている。あの鬼人には、戦う直前まで少なからず負邪が残っていた。完全に性質変化を終えたのなら、一パーセントでも負邪が身体に残留しているのは辻褄が合わない」
「そうだね。魔術においても、性質変化っていうのは遅くとも五分の時間を有するって論理をボクも施設で習ったよ。なら、その鬼人は実験体ってところかな」
カインの推測に、鏡夜と千雨は同意するように頷いた。
「まあ、彼の目的はひとまず置いておこう。問題はコアだね。キョウヤ、持ってるんでしょ?」
「ああ」
鏡夜はズボンのポケットに手を潜りこませ、それを取り出す。
直径三センチほどの黒塊は、未だ薄暗い光を放っている。それはつまり、裁我の魔力が残留しているという事を示していた。
「――へえ。よくこんな魔石を創り出したものだね」
カインと千雨は、テーブルに置いたコアをじっくりと見据え、魔力性質を分析していた。
「視ての通り、魔力が融合されてある。あいつは精質論理を応用して、鬼人を魔力で性質変化させたということだ」
「素材は判らないッスけど、結構硬そうッスね、これ」
指でコアを摘み、ジッと見据える千雨。
「…………」
そんな最中、カインは目を細めて、無言のままコアを見つめていた。
「カイン、どうした?」
突然黙り込んだカインに、鏡夜は訝しげに眉を顰めた。
しかし、カインはすぐにいつも通りの笑みを浮かべる。
「何でもないよ。――じゃあ、そろそろ行こうか」
突然、立ち上がって「うーんっ!」と大きく背伸びをするカイン。その、完全に何らかの思惑が宿っている碧眼が、鏡夜を定められる。
「……どこにだ?」
怪訝に問う鏡夜に、カインの笑みは皮肉げに吊り上がった。
「病院」
――それだけで。
その言葉だけで、鏡夜は否応なしに彼女の事を思い出した。
「病院だよ。有力情報を握っているかもしれない、ミナト・トオチカの入院している病院。知らない筈がないよね、キョウヤ?」
「……どこで聞いた?」
「質問を質問で返さないでほしいな。じゃあ、まずは君の質問から答えるとしよう。ミナト・トオチカ、十七歳。黒堂学園二年A組所属。裁我に襲われた確率、大。現在、K大付属総合病院に入院中。これくらいの情報は、さっきカイさんと会った時に教えてもらった。そして、君が唯一、心を許した相手でもある。――違うかい?」
「…………」
「びっくりしたよ。日本最強の封殺者が、一般人の少女に心を許すなんてね。でも、最終的には彼女を遠ざけた。その判断は正解だよ。ボク達は一般人の相手なんかしている暇はない。そうでしょ?」
「…………黙れ」
「鬼人を殺す為だけに生まれ、生きて、そして死んで逝く。そんな運命を背負っているボク達が、正常な人間と関われる訳が――と、何のマネだい?」
ほぼ無意識の内に、鏡夜はカインの首の動脈に手刀を突きつけていた。
「――ああ、その通りだ。お前の言っている事は、寸分違わず当たっている」
言葉ではそう言い返すが、反面、鏡夜の手刀は、今にもカインの動脈を切り裂こうとしていた。
――カインに殺意を抱いた事は今まで幾度となくあったが、今回は、今だけは――
ホントウに、殺してやりたいと思ったのだ。
「はい。そこまでッス」
突然割って入った千雨は、鏡夜の腕を掴み強引に首元から遠ざけた。
「チーム同士での喧嘩はさすがに私も見ていられないッスね。……カインくんも度が過ぎるッスよ」
カインに首を向けて、千雨は咎める様な視線を送った。
「はいはい、分かったよ。まあ、今回はボクが悪かった。でもね、キョウヤ。これだけは覚えておいて」
そこで、カインは険しい表情に変わり、鏡夜に忠告する。
「ボク達は、そんな行為に走ることは許されない」
「……ああ」
顔を背けて静かに返答する鏡夜。その言葉にカインは満足したのか、いつも通りの笑みを浮かべた。
「じゃあ行こうか! 善は急げって言うからね!」