XXXX年XX月XX日
気がつくと、俺は其処に在った。
其処は何も無い場所で、何も見えなくて、何も聞こえない場所だった。
五感が麻痺してしまったように何も感じない。
俺は最初に、なぜこの場所に居るのかと考えた。
しかし、それより先に。
複雑に交錯する記憶の断片が、写真のように長方形を象ったその記憶の断片が視え始めた。
なんだ、これは……?
どこかで見たような顔が記憶として視界に映る。
暗い世界は気づかぬ内に淡い光が射していて、成程、だから記憶の断片が見えるのだと理解した。
“――初めまして、というべきか。正極連動者”
どこからか声が聞こえた。
男性にも聞こえる、しかし女性の声質とも言える中性的な声だった。
“さて、『君の世界』は一度終わったわけだが、体験してみていかがだったか”
一つの記憶の写真が目の前に現れる。いや、それは写真ではなく映像だった。
見ると、そこには病院が映し出されていた。見に覚えがある小さな少女が、誰かに話しかけている。
……泣きながら、笑いかけている。
その笑みは酷く沈痛させる弱々しいモノだった。
あの一週間のような偽りの笑みではない。何かから開放されたような、「正」しい笑顔だった。
――そこには、遠近湊と千堂鏡夜がいた。
“私が【
どこか温かさすら感じさせる柔和な声で、その存在は言う。
“想像心界は【世界】においてそれなりに危険な魔術だ。君が昏睡状態で助かったのは君という存在の起源が在ってこそだな。普通の人間……いや、君の世界においての魔術師ですら存在が凍結してしまう。君は知らぬかもしれないが、想像心界にも実行の種類があってな。存在証明行為を『「正」しい事柄に導く為に起動する』か、『起動はしたが「誤」った方向に陥れてしまう』かの二種類がある。君の起動は後者に当て嵌まる”
でも、俺はあれが「正」しいと思ったんだ。湊を傷つけた遠近翔がどうしても許せなかったんだ。
“それは千堂鏡夜という自我にとっての「正」しいだろう? 良いか。君にとっては「正」しい事柄だとしても、それが【世界】にとっての「正」しい事柄とは限らない。世界と千堂鏡夜を天秤に掛けるつもりはないが、君の存在証明行為で、君の大切な人にも異変は起こっているのだよ。【遠近湊の起源体】、とでも例えるべきか”
――お前は、何が言いたいんだ?
“なに、大したことではないよ。ただ、【千堂鏡夜の仮初体】も今現在、中々に困り果てているとだけ言っておこう”
……声が遠のいていく。
“では、そろそろ失礼する。【対極心識】を空けたままにしていてね。あぁ、一つだけヒントを与えておこう。君が「正」しい行動を行わない限り、【世界】から負邪が消滅することはないぞ。あれもあれで、負極連動者として苦労しているのだよ”
そして、最後に聞こえた言葉は。
“【対極心識の因果】ではもう君とは会えないと想定できる。君は君で自分の【世界】を謳歌したまえ。ではな――”
そうして、俺の